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不動産投資

2021.10.11

【連載:不動産投資における賃貸物件の保証人問題⑥】~失われたタテ社会の結びつき(古き良き大家と店子の関係)~

【連載:不動産投資における賃貸物件の保証人問題⑥】~失われたタテ社会の結びつき(古き良き大家と店子の関係)~

大家と店子の経済原理を超えた結びつき

江戸時代の落語にもよく登場する「大家といえば親も同然、店子(賃借人)といえば子も同然」といった繋がりは、日本のタテ社会を象徴する結びつきでしょう。その属人的な関係は日本独特の長屋文化に由来するのかもしれません。

今から40年程前、私の親戚が経営しているアパートに入居している学生が困った表情で現れたそうです。その学生は「希望の就職先に晴れて決まったものの、内定先に提出する書類の保証人を探している」との相談でした。
親戚はその学生が複雑な家庭環境で育ち、上京してきた境遇を知っていたことに加え、日頃から真面目な生活態度を見ていたので、保証人を引き受けたそうです。

そして、それから20年以上の時が流れたある朝、親戚は新聞の人事欄に目を通すと、その時の学生は就職した先で重役に就任したという記事を見てビックリしたそうです。親戚はこのエピソードをその後も嬉しそうに語っていました。

しかし、こうした大家と店子の経済原理を超えた結びつきは昔の話。少なくとも現代の都心において属人的な関係性は消滅したと言っても過言ではないでしょう。
そのことが分かる、大家と賃借人の間で起きた不幸な事件について触れてみます。

不幸な事件

事件1:アパート大家殺害で容疑のアルバイト男を逮捕「家賃払えなかった」

2014年6月 警視庁は、同年1月に東京都江東区亀戸でアパート経営の大家(当時98歳)を窒息死させたとして、アパートに住むコンビニ店員のA男(当時29歳)を殺人容疑で逮捕した。A男は警察の取り調べに対して容疑を認め、「家賃の支払いを待ってもらおうとしたが、立ち退きを要求されてカッとなった」と供述している。

※読売新聞(2014年6月16日)などで報道

事件2:アパート大家殺害で元住人逮捕~滞納やトラブルも~

 2018年8月に岩手県警は、アパート経営者(当時80歳)を刃物のようなもので殺害したとして、近所に住む無職のB男(当時74歳)を逮捕した。B男は殺害したアパート経営者の所有する物件に入居していたが、家賃滞納だけでなく、大家に陰湿な手紙を送りつけるなどのトラブルを起こし、退去させられていた。

これら事件は不幸にも殺人にまで発展したことで報道され、個人で不動産を経営することの難しさを我々に認識させます。そして、これら事件の背景にはアパート入居者の意識が従前と変質してきた実態があるのかもしれません。

※朝日新聞デジタル(2018年8月25日)などで報道

大家と賃借人の間トラブル

事例1:賃借人(入居者)が悪意をもって意図的に長期滞納する

過去に何度も家賃滞納を近所の大家から咎められた賃借人は、ある頃から大家との連絡を意図的に一切絶ち、家賃を払わなくなった。ただし、金融機関に勤務しているこの賃借人には経済的に困窮している様子は見られない。
そこで、仕方なく大家は明渡し訴訟の手続きを進めることにしたが、個人でアパート経営をしてきた大家にとって裁判の手続きは煩雑であり、長い訴訟期間も覚悟しなければいけない。当然、個人で依頼するとなると弁護士・司法書士への委任費用も高額となった。

そして、明渡し判決が出てひと段落したと思ったら、賃借人は退去することなく、悪びれず居座り続けた。そこで、大家は強制執行の手続きまで進め、ようやく一件落着となった。
結果として、長期間に渡り家賃収入が途絶えただけでなく、膨大な訴訟費用を大家個人が負担せざるを得なくなった。それ以上に嫌がらせともいえる行為を賃借人から受けたことで精神的なストレスも大きかった。

上記のように消費者保護を目的とした制度を悪用するパターンだけでなく、社会で急速に進んだグローバル化により起こるケースもあります。その代表例の一つが以下です。

事例2:悪意のない外国籍の賃借人が予告なしに退去してしまった

日本では、アパートやマンションから退去する場合、解約日の1か月前に大家に通告する慣習があり、入居する際の契約書にもその規約が盛り込まれている。
しかし、こうした日本の慣習を知らない外国籍の賃借人から、「急遽、本国に帰ることになったので、カギは玄関に置いてあります」という連絡があった。そこで慌てて大家が部屋に入ると、玄関に鍵とともに、「ありがとうございました」という書き慣れない日本語のメモが残されていた。

この賃借人は家賃の滞納もなく、日本語を流暢に話せなかったこともあり、大家はコミュニケーションを取ることを避けてきた経緯があった。結果として本来であれば、残りの1ヶ月分の家賃を支払ってもらう必要があるのだが、退去の連絡以降、連絡は途絶。結局、大家は1ヶ月分の家賃は未収のままとなり、急いで次の入居者を探すこととなった。

まとめ

上記2つの事例は、私が不動産関係の知人から聞いた話ですが、ツイッター等のSNSでも同様のケースをよく見ます。
もしかしたら、こうしたトラブルは大家と店子(賃貸人)の間で日頃から信頼関係を築くことで回避できたのかもしれません。しかし今日、不動産経営も投資的な要素が強まることで、大家と賃貸人の接点が物理的にも、精神的にも希薄化してきたことは事実です。こうした関係性の変質は今までの大家には経験しなかった精神的な負担を生んでいるのかもしれません。

いずれにしても、この種のトラブルは家賃債務保証のサービスを活用していれば防げた可能性が高いと思われます。今日、不動産経営する上で家賃債務保証の利用が必須の要件となっている理由はここにもあります。

監修:堂下 浩
profile

東京情報大学総合情報学部・教授

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。同大学院理工学研究科修士了。テキサス大オースティン校で経営学修士(MBA)を取得。東京情報大学博士(総合情報学)。
(株)三菱総合研究所、(株)ジャフコなどを経て現職。パーソナルファイナンス学会理事、早稲田大学招聘研究員などを兼務。専門は金融論、ベンチャービジネス論。 著書に『消費者金融市場の研究』文眞堂(2005)、論文に「前近代的な情報管理システムに起因する銀行カードローンの問題点に関する調査」パーソナルファイナンス学会No.5(2018)など。

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OWNERS.COM編集部