記事

不動産投資

2021.09.16

【後編】不動産投資物件の利回りで見る最新の相場観は

【後編】不動産投資物件の利回りで見る最新の相場観は

利回りで相場観を掴むには不動産の内容を揃える

地域、用途(住宅・商業)、構造(木造・RC造など)、築年(新築・中古なら築年数など)といった不動産を構成する要素により、相場を形成する利回りは異なります。同じ地域にある不動産でも、構造や築年の違いによって異なった相場が形成されることになります。

以下では、不動産の内容によってどのような利回りの傾向があるのか見ていきましょう。

不動産の用途(住宅系と商業系)の傾向

マンションなどの住宅系は、ファミリー向け(2LDKや3LDKなど)の場合、居室の面積が広くなるため、ワンルームなど単身向けに比べて利回りが低くなる傾向があります。

ビルなどの商業系は、事務所・店舗・ホテルといった用途によって収益性が異なります。概ね「事務所<店舗<ホテル」の順で収益性(収入)が高くなる傾向があります。従って、同じ立地の建物でも商業利用の用途によって利回りも異なってきます。

また商業系と住宅系では、一般的に商業系のほうが収益性は高い傾向があります。ただし、商業系の物件は、全体に占める1室当たりの家賃収入割合が大きいため、空室が出た場合の収益変動が大きくなります。仮に同じ利回りの物件なら、商業系物件のほうがリスクは高くなります。そのため、商業系不動産の場合、個人の一般投資家は金融機関からの融資が受けずらく、投資経験の豊富な投資家や法人が対象となります。

建物の構造による傾向

建物の構造によっても、相場の利回りは異なってきます。建物の構造によって建築コストは異なり、耐震性や遮音性など建物の性質も違います。建物の性能の良し悪しは賃貸の入居率に関係し、家賃設定にも影響します。

建物の構造で比較すると、建物の建築コストに応じて建物の価値(価格)は「木造<鉄骨(S)造<鉄筋コンクリート(RC)造<鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造」の順で高くなる傾向があります。しかし、構造が優れるほど家賃は高くなるものの、コストに見合ったほど家賃が高く取れないケースが多く、利回りは逆に「SRC造<RC造<S造<木造」になる傾向があります。

築年による傾向

建物の築年によっても利回りは異なります。新築時は最も建物価値(価格)が高いため、利回りは低くなります。築年が進むにつれて、建物の価値が下がり価格が安くなるため、利回りは高くなる傾向があります。ただし、中古物件の価格は、物理的な条件(立地の希少性や管理状態)や売主の希望条件によっても左右されるため、築年が古くても建物の状態や入居状況によっては、利回りは低い(価格が高い)物件があります。

しかし、この傾向は完成した物件の相場のものであるため、自ら所有する土地、あるいは新たに購入した土地に自身で建物を新築する場合は、相場よりも高い利回りで不動産を取得できる可能性もあります。

利回りで見る現在の相場観

現在のグロス利回りで見た相場観を見ていきましょう。ここでは、筆者が実際に見聞きした取引から利回りの相場観をご紹介します。一般的な不動産投資用の取引を調査した統計データがないため、あくまで一つの見解、参考としてご覧ください。なお、実際に流通している「不動産の地域」「不動産の種類」「築年」などで分類し、利回り提示して相場観を紹介します。

首都圏の相場観

※上記の数値は筆者が見聞した情報を感覚的にまとめたものであり、あくまで一つの見解であり、参考値です。

上記の表はあくまで平均的なもので、都心部は土地自体の価値が落ちにくいため、取引される利回りの相場に大きなブレはありません。一方、都心部から離れ郊外になるほど、個別の取引される利回り(価格)は差が大きくなります。

例えば、首都圏3県主要部以外の地域の中古一棟マンションであれば、グロス利回り8%~10%で取引されるものも散見されます。一方、新築・中古アパートなどの未公開物件では、公開されている物件よりも高い利回り(安い価格)で取引されているものも多く、実際の相場は非常に把握しにくい傾向があります。

また、区分マンションは築年が古くなるにつれ、管理費や修繕積立金が高額になります。そのため、グロス利回りが高くなるよう価格設定されているものの、ネット利回りはそれほど高くない傾向があります。

その他の地域の相場観

私見ではありますが、上記で首都圏の利回りの相場観をご紹介しました。ここでは、大阪・名古屋・福岡・札幌・仙台の相場観についてお話ししましょう。

大阪・名古屋・福岡

大阪・名古屋は、首都圏のその他都区部、首都圏3県の主要部とほぼ同様な相場観といえます。特に、大阪・名古屋・福岡は中心部の一部に、東京主要5区と同等な相場観の地域がありますが、その範囲はそれほど広くありません。

札幌・仙台

札幌・仙台は、都心部の一部地域にその他都区部と同等な利回りの相場観の地域がありますが、札幌駅・仙台駅周辺のごく一部です。それ以外の地域は、首都圏3県その他地域とほぼ同等の利回りといった相場観となっています。ただし、中心部を離れるとリスクが高まるため、物件価格が下がり高い利回りで取引されています。

まとめ

不動産投資で物件検討を行う場合でも、取得予算があるため、物件価格で検討することになります。しかし投資という観点からは、第一の判断基準としてグロス利回りを検討し、絞り込むことが大切です。その際、周辺の利回りの相場観を知っておくことで、検討しやすくなることは間違いありません。

検討物件を絞り込み一歩進んだ具体的な検討においては、不動産ごとの個別性が高いネット利回りも検討しなければなりません。そして、最終的な購入の判断では物件の将来性まで検討し、納得した上で購入するようにしましょう。

秋津 智幸
tomoyuki_profile

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。
公認不動産コンサルティングマスター 、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP、ファイナンシャルプランニング技能士2級)。

横浜国立大学卒業後、神奈川県住宅供給公社に勤務。その後不動産仲介会社等を経て、独立。現在は、自宅の購入、不動産投資、賃貸住宅など個人が関わる不動産全般に関する相談・コンサルティングを行う。その他、不動産業者向けの企業研修や各種不動産セミナー講師、書籍、コラム等の執筆にも取り組んでいる。

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部