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2021.08.23
この記事の目次
まずは、相続財産の無断処分・使用について、具体的に解説していきます。被相続人の死亡により相続が発生した場合には、被相続人が所有していた財産及び債務は、相続財産として扱われます。
民法898条により、遺言が無い場合における相続財産は、遺産分割が完了するまでの間、相続人全員で共有するものとなっています。そのため、相続人が複数名いる場合には、相続財産は複数名の相続人による共有物です。
共有物を処分する際には、民法251条より、共有物の変更に当たりますので、共有者全員の同意を得る必要があります。そのため、相続財産の処分は、相続人全員の同意がなければできません。個人個人が相続財産を自由に処分するためには、誰がどの財産を取得するかを確定し、共有を解消する必要があります。この確定手続きが遺産分割協議になります。
よくある例としては、被相続人の同居親族など近しい相続人が、他の相続人に伝えることなく、自身の都合の良いように相続財産を処分・使用してしまうことがあります。また、預金通帳を他の相続人に開示しないなど、相続財産を隠匿する事例も。遺産分割協議を行う前に、相続財産を勝手に処分・使用することは違法となり、後日、損害賠償請求などをされる可能性があります。
そのため、相続人による相続財産の無断処分・使用が明らかとなったときには、他の相続人は自身の相続財産が侵害されることになるので対応策の見当が必要です。時間が経てば経つほど事実関係は分かりにくくなり、相続財産の無断処分・使用がエスカレートするリスクがあります。
最も多い事例としては、生前同居していた相続人が、自らの利益のために相続財産を無断で処分・使用、または隠匿してしまうケースが挙げられます。
被相続人と共に生活していた相続人は、被相続人より財産管理を任されることがあり、他の相続人が把握していない財産まで管理していることが多々あります。また、印鑑の管理を行っており、金融機関の担当者とも顔見知りのことが多く、比較的容易に相続財産を処分・使用できてしまいます。
被相続人の死亡後、情の強すぎる相続人が「被相続人の意思はこうだ!」などと勝手に思い込み、他の相続人の主張を聞かず、独断で相続財産を処分してしまうというケースは多いのです。場合によっては、生前から被相続人の財産を隠匿するなど悪質なケースもあります。
他の相続人から指摘が入ると「被相続人の意思だ!」「私は常に面倒を見ていた!」などの言い訳をしますが、これは単なる思い込みです。相続財産の分割に係る被相続人の意思は、法律要件に合致した遺言でしか実現はされません。また面倒代は「寄与分」として評価される部分はありますが、なかなか認められるものではなく、ましてや勝手に決めることはできないものです。
遺言が無い場合、相続財産の処分や帰属については全相続人の同意によって決定する、と民法で定められています。そのため、相続人の独断処分や隠匿は、相続財産の無断処分・使用となり違法です。
相続財産の無断処分・使用が発覚した際に、他の相続人は冷静に行動することが重要です。効果的な対策として、以下の3つが挙げられます。
無断処分・使用された金額が少額であれば、遺産分割協議を引き続き行って構いません。民法906条の2 第1項より、無断処分・使用した相続人を除く全相続人の同意により、無断処分・使用された相続財産を存在するものとみなして、遺産分割の継続が可能です。
無断処分・使用された相続財産が、その無断処分・使用をした相続人の相続分を超えていなければ、まずは無断処分・使用された相続財産があるものとして遺産分割協議を行います。そして、無断処分・使用した相続人が相続する財産から無断処分・使用部分を差し引くことにより、平等な遺産分割を行います。
無断処分・使用した相続人とよく話し合うことも大切です。無断処分・使用した相続財産を戻すよう、説得してみましょう。
訴訟や調停などの法的措置の前に、まずは話し合いをし、戻してもらえるのであれば戻してもらう形を取るほうが、当事者のストレスや労力も大幅に軽減されるはずです。
また、法的な裏付けを折り込みながら丁寧に説明することも大切です。法的な裏付けを出されて、自身が不利な状況であることを認識すると、歩み寄ってくるケースもあります。
よく話し合った結果、無断処分・使用された相続財産を戻してくれないというケースであれば、訴訟により返還を請求する他に適切な方法はありません。法律上は、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求を行うことになります。
相続財産の無断処分・使用、隠匿行為に対応するのは、親族間ということもあり精神的なストレスがかかります。将来、被相続人となる方が元気なうちに、遺言・信託等の利用による相続財産の洗い出し、被相続人になる方の意思の明確化をしておくことが有用です。
無断処分・使用・隠匿は違法行為のため、法の場にでれば確実に敗訴します。そのため、法的裏付けを説明したうえでの交渉は、相手がよほど無知でない限りは有効ではないでしょうか。