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2021.06.03
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建物や機械と同様に、生物にも減価償却が認められています。
収入の多い富裕層にとっては、減価償却のできる投資商品は、節税の観点から関心が高いと言えます。
しかも競走馬の償却期間は4年なので、節税の効果が高くなっています。
まずは馬の減価償却から見ていきます。
競走馬の減価償却は、以前はトレーニングセンター等への入厩(にゅうきゅう)をして競走馬登録をする1歳11ヶ月から償却開始でした。しかし現在では、育成牧場に在厩のまま登録ができる早期特例登録が認められたため、最短で1歳9ヶ月から償却可能となっています。
耐用年数は4年です。競走馬として活躍できるのは長くても6歳から7歳くらいまでと言われていますので、比較的妥当な期間と言えます。
ちなみに馬の年齢は、生まれ月に関係なく1月1日で一つ年を取ります。生まれたときが0歳で、翌年の1月1日で1歳です。
競走馬として登録された馬の多くは、5歳から6歳で引退します。馬の平均寿命は30年程度と言われていますので、引退後も長い余生が残されています。
G1(競馬の最高格付け)などで活躍した馬であれば、種牡馬や繁殖牝馬となることができますが、活躍できなかった馬は、乗馬クラブや観光牧場などで暮らすことになります。
使用目的が変更された馬は未償却残高をベースに、繁殖用であれば6年、その他の馬であれば8年の減価償却が認められます。
また引退後の馬を売買すれば、売買価格が減価償却の元となって計算されます。
馬がレースに出て活躍すれば賞金が入ってきます。JRAのレース等の賞金は以下の通りです。
1着から5着までの馬がもらえる賞金です。
2021年の最高金額は、ジャパンカップと有馬記念で優勝賞金は3億円です。2着以下は1等賞金の40%、25%、15%、10%となっています。
6着から8着(重賞などでは10着まで)に出される賞金です。
1等の賞金に対して8%から2%が支払われます。G1レースなどでは、11着以下にも特別出走奨励金が支払われることがあります。
すべての出走馬に対して支払われる手当です。1レースあたり40万円程度支払われます。
また上記以外にも、長距離の加算や内国産馬の奨励金なども支払われます。したがって、とにかく競走馬として出走していれば、いくらかの収入を得ることができます。
JRA(日本中央競馬会、以下JRA)によると、2017年に馬主に支払われた賞金等は約809億円で、出走した馬は11,197頭だったので、1頭の年間平均収入は約723万円となっています。ただし3冠馬など、抜きん出て稼ぐ馬がいることを考えると、多くの馬は平均以下の稼ぎしかないことになります。
また賞金は丸々馬主に入るのではなく、調教師や厩舎、騎手などに20%を払い、税金などが引かれて、手元に残るのは賞金の60~70%となります。
優勝実績のある馬であれば、引退後も種付け料で稼ぐことができます。
G1で優勝したような優秀な馬であれば、500~1,000万円の種付け料となる場合もあります。
馬は生き物ですから、出走させるためには世話をして、調教をしなくてはなりません。
馬を保有することで、どのような費用が発生するかを見ていきましょう。
過去最高では2006年にディナシーという馬が6億3,000万円で落札されました(2021年現在)。しかし、ディナシーは一度もレースに出る事もなく引退しました。
一方で、現在では18億円もの賞金を稼ぐ馬にまで成長したキタサンブラックは、庭先取引(生産者と馬主による直接取引)によって推定350万円で購入されたと言われています。
人気のない馬であれば150万円程度で値付けされることもあるのです。
馬を購入したとしても、自宅において置けるわけではないので、牧場やJRAに預託することが必要です。JRAに預託すれば、1ヶ月60万~70万円程度かかります。
つまり0歳で購入すれば、デビューの2歳まで、2年間は経費のみかかるということです。デビュー後も頻繁に走るわけではないので、特別出走手当だけでは黒字になりません。
馬主としての収入があれば税金がかかってきますが、馬主としての所得の計算方法は、事業規模があるかないかで分かれてきます。
事業的規模があれば事業所得となり、事業的規模がなければ雑所得となります。事業所得になると、他の所得との損益通算や損失の繰越控除をすることができるので、富裕層にとってのメリットが出てきます。
馬主における事業的規模とは以下のような状況を言います。
A.5頭保有
・登録期間が6ヶ月以上の馬を5頭以上保有すること
B.2~4頭保有
・当年を含めた過去3年間に登録期間が6ヶ月以上の馬を2頭以上保有し、当年以前の過去3年間で黒字の年が1年以上あること
・当年を含めた過去3年間とも競馬賞金等の収入があり、その3年のうち1年は年5回(2歳馬は3回)以上出走の競走馬があること
C.1頭保有
・当年を含めた過去3年間とも競馬賞金等の収入があり、その3年のうち1年は年5回(2歳馬は3回)以上出走の競走馬があること
この基準から分かるのは、1頭を年5回以上走らせるのは比較的厳しい条件であること、また2頭程度の保有では単年度の黒字は3年に1回でも難しいであろうということです。
また5頭以上の保有でなければ、3年以上の馬主暦が必要になっています。初年度から事業にするならば、一気に5頭以上を保有しなければなりません。
事業的規模になれば、損失を繰り越せるようになります。他の所得との損益通算もできます。また高値で馬を競り落としても、4年で減価償却できるので、節税面でも活用できることから、富裕層が興味を示すのが分かります。
日本の競馬は大きく分けて、JRAが開催するものと、地方の競馬会(地方競馬)が開催するものの2種類があります。ここでは、JRAの馬主になる基準をみていきましょう。
JRAの馬主の登録基準では、以下の人物的な要件と財産的な要件が審査されます。
1は犯罪歴がないことや過去に競馬に関連して処分されたことがないかなどが問われます。2と3では、継続した収入と財産があることが求められます。
馬主になるための財産の要件をみると、個人馬主=一定の富裕層であることが分かります。
勝てる確率を高めるために、保有する馬の頭数を増やしたほうが良いのですが、購入費用と維持費が増加します。一方で、競走馬は4年で減価償却しますので、節税効果は高いと言えます。
したがって、収入および資産のある人であれば、最初から5頭以上を保有し、事業として馬主をスタートさせるのが投資家的な考えと言えるでしょう。
なお地方競馬になれば、JRAより馬主の基準は低くなりますので、興味のある富裕層は馬主にチャレンジしてはいかがでしょうか。