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クラウドファンディング

2021.05.20

【連載:今こそ、始めよう!不動産クラウドファンディング③】優先劣後とは構造とは?専門家が教える不動産ファンド商品の選定のポイント

【連載:今こそ、始めよう!不動産クラウドファンディング③】優先劣後とは構造とは?専門家が教える不動産ファンド商品の選定のポイント

編集部:

前回は、相続対策に役立つ任意組合型ファンドについて説明していただきました。
「遺産分割」や「生前贈与」に関してメリットがあることがよく分かりました!

くるみ先生:

今回は、相続財産の圧縮効果はありませんが、お金を運用して増やしたい、いわゆる資産形成目的で投資をする投資家に向いている匿名組合契約に基づく不特法商品(不動産小口化商品)について解説していきます。

匿名組合型における投資家が負う責任とは

くるみ先生:

匿名組合型の優れた点として、投資家が負う責任に限度があるという点が挙げられます。

編集部:

投資家が負う責任とは何でしょうか?

くるみ先生:

たとえば、ファンドの対象不動産に構造上の欠陥があり、入居者の方が怪我をしてしまった結果、多額の損害賠償金が発生したとします。
任意組合型ファンドでは、対象不動産の売却代金で損害賠償金が払いきれない場合、残りの金額を全ての投資家が連帯して支払う「無限責任」を負います。

編集部:

つい先日、とあるアパートの共用階段が崩落して人が亡くなった事件がありましたが、そのような不動産に投資することはとても怖いことですね。

くるみ先生:

そうですね。
その点、匿名組合型ファンドの場合は、投資家の責任がその出資額を上限とする「有限責任」となっているので、出資金の価値がゼロになってもそれ以上の金額を負担する必要はありません。

編集部:

なるほど、それであれば相続対策の必要がない投資家には匿名組合型の方が向いていますね!

ファンド商品の選び方

編集部:

最近では、インターネットで申し込める匿名組合型ファンドがたくさんあるようですが、どのように商品を選んだらよいのか、選び方のポイントを教えてください!

くるみ先生:

まず、ファンド商品が「優先劣後構造」を採用しているかどうかを確認しましょう。
優先劣後構造の有無で、ファンドの商品性が大きく異なってきます。

編集部:

優先劣後構造とは何ですか?

くるみ先生:

優先劣後構造とは、ファンドの出資を優先的にお金を受け取ることができる「優先出資」と、優先出資に支払った残りのお金を受け取る「劣後出資」の階層に分ける仕組みをいいます。

編集部:

投資家としては、優先的にお金を受け取れる方が嬉しいですね。

くるみ先生:

そうですね。
優先出資には不動産の賃貸や売却によって得られたお金が優先的に支払われるので、劣後出資に比べて、リスクの低い商品となります。

逆に、優先出資よりもお金を受け取る順位が劣る劣後出資は、リスクの高い商品となります。
投資の世界ではリスクとリターンが連動しますので、優先出資はリスクが低い分だけ利回りも低く、劣後出資はリスクが高い分だけ利回りも高くなる傾向にあります。

編集部:

なるほど。
キャピタルゲインを狙いたい人は、劣後出資を購入することもできますか?

くるみ先生:

優先劣後構造を採用したファンドにおいて、劣後出資が販売されることは通常ありません。
リスクの低い優先出資を投資家に販売する一方、リスクの高い劣後出資はファンド事業者が拠出しなければならないからです。
キャピタルゲイン狙いであれば、優先劣後構造を採用していないファンドに出資することを検討しましょう。

編集部:

なるほど、キャピタルゲイン狙いなら優先劣後構造を採用していないファンドということですね!

逆に、優先劣後構造を採用しているファンドは、キャピタルゲインを狙えない分、リスクを抑えた設計になっているということでしょうか?

くるみ先生:

はい、おおむねそのとおりです。
ただし、同じ優先劣後構造のファンドといっても、優先出資と劣後出資の割合によって投資家の負うリスクが異なる点に注意が必要です。

編集部:

優先出資と劣後出資の割合とは何でしょうか?

くるみ先生:

たとえば、100の対象不動産の価格が下落し、90で売却されたケースで割合の違う2つを比べてみましょう。

①優先出資と劣後出資の割合が70:30のファンド
売却代金90のうち70が優先出資に支払われ、残りの20が劣後出資に支払われます。
結果、優先出資の投資家は、元本70を全額回収することができます。

②優先出資と劣後出資の割合が95:5のファンド
売却代金90が優先出資に支払われ、劣後出資への支払いはゼロとなります。
結果、優先出資の投資家は、元本95のうち90しか回収できず、5の損失を負うこととなります。

編集部:

なるほど。
別の見方をすれば、劣後出資が損失を先に吸収してくれるということですね。

くるみ先生:

そのとおりです。
劣後出資の割合が高まるほど、私たちが投資する優先出資の損失が生じるリスクが減っていき、その商品性は「社債」や「貸付金」といった「固定利回り商品」に近くなっていきます。

同じ匿名組合型ファンドといっても、優先劣後構造を採用しているか否かで商品性が大きく変わりますし、優先劣後構造を採用したファンドでも劣後出資の割合によってリスクの大きさが変わることに注意しましょう。

編集部:

分かりました。
匿名組合型ファンドを選ぶ際には、優先劣後構造の有無や、劣後出資の割合をチェックしてみていきます!

石井くるみ
terahira_profile

日本橋くるみ行政書士事務所代表 不特法アドバイザー
国交省『FTK活用検討会』総括会・委員

不動産と金融規制を専門とし、これまで40社を超える企業の不動産ファンド事業参入を支援。ファンド法務に限らず、戦略立案から商品設計、会計実務までを、各分野の専門家と連携してワンストップでサポート。 2020年6月、国土交通省『不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討会』総括会の委員に就任。不動産金融の理論と実務の両面を踏まえたFTKの様々な活用手法を提言している。
主な著書・論文:『民泊のすべて』(大成出版社、2017年度日本不動産学会著作賞受賞)、『不動産特定共同事業(FTK)のすべて』(月間不動産フォーラム21連載)、『不動産クラウドファンディング事業化のポイント』(全国賃貸住宅新聞に連載)など

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部