クラウドファンディング
2021.05.10
橋本秋人氏:
少額の資金で投資する手法として不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングが注目されていますが、違いは分かりますか?
編集部:
どちらもインターネットを通じて気軽に投資ができると聞きますが、どのような違いがあるのでしょうか。
橋本秋人氏:
そうですね。違いがよく分からないという方が多いので、それぞれの投資の仕組みやメリット、選択する際の注意点について解説していきましょう。
この記事の目次
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングのそれぞれの仕組みを説明します。
不動産クラウドファンディングとは、事業者がインターネットを通じて不特定多数の投資家から募った資金で不動産の取得や運営を行い、そこから得られた利益を投資家に分配する仕組みです。
事業者は、インターネットで事業資金を集めることにより、銀行から借入を行わなくても資金調達が可能になるため、新規物件の取得がしやすくなります。
不動産クラウドファンディングでは、投資対象の不動産の情報が開示されているため、投資家は対象不動産の詳細をチェックし、自分で投資の可否を判断することができます。
不動産クラウドファンディングは少額の投資でありながら、投資物件の選定など、現物不動産に投資しているような楽しみも味わうことができます。
ソーシャルレンディングは、不特定多数の投資家が、インターネットでソーシャルレンディング運営会社(以下、運営会社)を通じて事業資金が必要な事業者に対して投資を行い、利子を受け取るという仕組みです。
なお、運営会社が貸し付ける事業は不動産に限りません。
具体的には、運営会社が多数の投資家と匿名組合契約を締結し集めた資金を、 事業を行う事業者に貸し付けます。
運営会社は事業者から利子を受け取り、その中から投資家に対して利子を分配金として支払います。
こうした性質から融資型クラウドファンディングとも呼ばれています。
では、改めてどのように違いがあるのかを比べてみましょう。
それぞれの仕組みの違いの一つは、資金の投入先です。
不動産クラウドファンディングが不動産に投資するのに対し、ソーシャルレンディングは運営会社に投資を行います。
不動産クラウドファンディングは、投資した不動産の運営等で得られた収益から分配されます。
そのため、投資した不動産で収益が生まれなければ分配されない可能性もあります。
一方のソーシャルレンディングは、運営会社に投資をし、投資した分の返済の利子を受け取ることで利益となります。
そのため基本は、運営会社が収益を得られたかどうかに関わらず、融資時に設定した金利分が得られます。
ただし、以降でも説明しますが注意点もあります。
2つの投資手法には、規制する法律に違いがあります。
不動産クラウドファンディングは不動産に「投資」する仕組みのため、不動産特定共同事業法の規制を受け、一方のソーシャルレンディングは事業者に「貸し付け」をするため、金融商品取引法や貸金業の規制を受けます。
どちらも投資家の保護を目的とした法律に基づいて運営されています。
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングの仕組みの違いから、メリットと注意点を見ていきましょう。
まずは不動産クラウドファンディングの特徴を説明します。
不動産クラウドファンディングでは、投資対象となる不動産の情報が開示されています。
開示情報は、物件の所在、築年数、賃料、運用状況など多岐にわたり、投資家はこれらの情報を投資判断に利用することができます。
また、投資家が自ら物件を見に行くこともできるので、実際の物件の状態をチェックすることも可能です。
不動産クラウドファンディングでは、投資家と事業者の双方が出資し、共同で不動産の購入・運営を行いますが、多くの場合、「優先劣後方式」を採用しています。
「優先劣後方式」とは、投資家からの出資を「優先出資」、事業者からの出資を「劣後出資」とするものです。
投資家は、優先出資者として、運営から生じた利益を優先的に受け取ることができ、万が一、不動産の運用で損失が発生しても、損失額が劣後出資の範囲内であればその損失は事業者が負担し、投資家は損失を免れることができます。
そのため、優先劣後方式は、投資家にとって安心して投資ができるスキームと言えます。
ただし、損失が劣後出資の額を超える場合は、超えた分についての損失は投資家が負うことになります。
そのため、劣後出資の比率が高い不動産クラウドファンディングほど、投資家が損失を被るリスクが低くなります。
不動産クラウドファンディングは、対象不動産からの家賃や売却益が投資家に分配されます。
そのため、空室や賃料低下、物件価格の下落などが発生すると想定した利益が得られない可能性があります。
次にソーシャルレンディングのメリット・注意点を紹介します。
ソーシャルレンディングは資金の貸し付けのため、あらかじめ分配金の利回りが確定しています。
そのため投資家は、定期的に決まった利子を受け取ることができます。
一般的にソーシャルレンディングは、不動産クラウドファンディングと比較して利回りが高めに設定されています。
ただし、次の注意点があります。
ソーシャルレンディングは利回りが高く、かつ確定しているといっても、融資先の事業者の経営悪化や破綻などにより返済の遅延や貸し倒れのリスクがあるため注意が必要です。
ソーシャルレンディングの融資先の事業者は、不動産に限らず、国内外のさまざまな事業を行っており、なかにはリスクが高い事業もあります。
一般的に、リスクが高い事業は資金が集まりにくいため、事業者が借り入れする際の金利も高くなります。
そのうえ、運営会社は、投資家への分配金に対し、更に金利を上乗せして事業者に融資を行います。
事業者は、実際には投資家に約束されている以上の利子を支払わなければならず、さらにリスクは高まります。
そのため、投資家も、利回りだけで判断せず、リターンとリスクのバランスや運営会社の信用を見極めて選択することが大切です。
以前は、貸金業法の観点からソーシャルレンディングの貸付先の事業者は匿名化されていたため、投資家は事業者の情報について知ることができませんでした。
2019年からは金融庁の方針に基づき、情報開示が進んでいますが、詳細の情報までは開示されていない案件も数多くあります。
ソーシャルレンディングは原則として運用期間中の解約ができません。
あらかじめ手元に残す資金を考慮しながら投資額を決める必要があります。
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングのメリット・デメリットについて解説しましたが、どちらの手法を選択するかにあたっては、次のポイントに注意しましょう。
一般的にソーシャルレンディングは不動産クラウドファンディングよりも利回りが高い反面、情報開示については不透明な部分が多い分、リスクも高いと言えます。
投資資金の性格や投資の目的を考慮し、どちらを優先するかを判断しましょう。
不動産クラウドファンディングの場合、運用する物件の見極めが重要です。
開示されている物件情報をもとに、所在や築年数だけでなく運用状況や管理状態も確認するようにしましょう。
また、同じ収益不動産でも種類によって利回りやリスクが異なります。
居住用マンション、オフィスビル、商業ビル、ホテル、物流施設など、対象物件の種類による特徴を理解しておくことも大切です。
不動産クラウドファンディングでも事業者の信頼性は大切ですが、ソーシャルレンディングの場合は投資家が運営会社に対し投資を行うため、運営会社の信頼性はより重要です。
運営会社については、各社サイトのIR情報で必要な情報を入手することができるので、経営状況や実績などを調査し、信頼できる運営会社を選びましょう。
不動産クラウドファンディング、ソーシャルレンディングともに運用期間は3カ月程度から3年程度までとさまざまです。
一般的に運用期間が短い案件は早期に利益を得ることができる反面、利益の総額は小さくなります。
一方、運用期間が長い案件の場合、短期運用案件よりも利益総額が大きくなる可能性が高くなります。
ソーシャルレンディングは途中解約ができず、不動産クラウドファンディングは途中解約ができる案件もありますが、一定の手数料が必要になります。
投資目的によって運用期間を決めることが大切です。
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングには、それぞれメリットとデメリットがあります。
優先すべきメリットやどうしても避けたいデメリットを明確にし、投資家それぞれのスタイルに合った投資手法を選択しましょう。
そして、他の投資手法も含めたリスク分散を行いながら、バランスの良い投資を行うことが大切です。