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不動産投資

2021.03.29

【連載:不動産投資と税】③不動産保有時の税務処理 ― ポイントを税理士が解説

【連載:不動産投資と税】③不動産保有時の税務処理 ― ポイントを税理士が解説

総収入金額

総収入金額の内訳について取り上げます。

家賃収入

収入として1番に思いつくのが、家賃ではないでしょうか。
例えば、翌年1月分の家賃が12月に入金されるとどうなるのでしょうか?

不動産収入の計上基準について所得税法基本通達36-5に取り扱いがあります。
結論的には、契約又は慣行により支払日が定められているものはその支払日が基準となります。
つまり、賃貸借契約書の内容が前家賃(「前家賃」とは、当月中に翌月分の家賃を支払うことをいいます。)だとすると、翌月分の家賃も今月分の収入と認識するということです。

12月中に翌年1月分の家賃を支払う契約になっていたら、翌年1月ではなく本年12月の収益に計上するということです。
(ただし、帳簿を継続記帳している場合は、例外的に期間対応を行うこともできます。つまり、12月に入金された翌年1月分の家賃を1月の収益として計上することができます。)

原則的に、実際に入金になっていない場合も収入と認識する必要があります。
(税務署に、現金主義による所得計算の特例を受けるべく届出を行っている場合を除きます。)
これは、個人の方が記帳など行わないでも良いようにすべく規定されているように思います。

礼金、更新料、原状回復費用

その他、礼金や更新料なども収入金額として計上します。

その中でも、原状回復費用の取扱いに注意しましょう。
建物の賃貸借契約において、建物退去時の原状回復工事を賃借人が行うことになっております。
しかし実際は、賃借人が現状回復工事を手配・実行するのでなく、賃貸人が手配・実行を行うケースがよく見受けられます。

その場合、賃借人が負担すべき原状回復費用は敷金等から差引いて精算します。
賃貸人が賃借人から受け取った原状回復費用は、総収入金額に含めて計算します。

必要経費

次に、必要経費について取り上げます。 

不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費は必要経費として計上することができません。
必要経費に計上するには、家事上の経費と明確に区分けできるものであり、投資用不動産に係るものとしては次に掲げるものがあります。

固定資産税(都市計画税含む)

1月1日現在の不動産所有者を納税義務者とする税金です。
横浜市の場合、毎年4月中に納税通知書が届き、1年分を一括納付する方法と、4回に分けて分割で納付する方法があります。

計上する金額については、現在所有しているお住いの不動産と投資用不動産が別地域の場合は分かりやすいです。
投資用不動産を管轄する役所から発行される、納税通知書に記載された固定資産税の金額を経費として計上します。

現在所有しているお住いの不動産と投資用不動産が同一地域の場合は、ご自宅に複数不動産の固定資産税をまとめた金額の納税通知書が届きます。
その場合、投資用不動産の分だけを抽出する必要があります。

投資用不動産の課税標準額(原則、不動産価格)を、例えば、横浜市では下記のように算出します。
・固定資産税:課税標準額×1.4%
・都市計画税:課税標準額×0.3%

ちなみに固定資産税と都市計画税の「課税標準額」が一致しているとは限りませんので注意ください。

損害保険料

火災保険等の保険料を支払っているケースです。
いわゆる「掛捨てタイプ」では、保険料を支払った時に必要経費に計上します。
一方で、保険期間満了後等に満期返戻金等として支払われる「積立てタイプ」は、支払った保険料の全額を必要経費に計上することはできません。
この場合、「払込保険料が満期返戻金等に充てられる部分(積立てタイプ)」と「掛捨ての保険料に相当する部分(掛捨てタイプ)」に分けることになります。
掛捨てタイプの保険料に相当する部分については支払った時に必要経費に計上し、積立てタイプの保険料に相当する部分は資産となります。

なお、ご自宅と投資用不動産両方の保険料を支払っている場合は、投資用不動産のみの保険料を必要経費に計上します。
まとめて支払っている場合は注意しましょう。

減価償却費

減価償却資産の使用可能期間(耐用年数)に合わせて必要経費を計上します(ちなみに土地は減価償却資産ではありません)。
固定資産の使用や時の経過等によってその価値減少分を経費化してきます。

「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に基づき、建物を「細目(例えばどういう用途に用いるのか)」と「構造(どういった造りか)」に区分けし、耐用年数を当てはめます。
前回の記事で不動産の取得時の資産内容・金額の区分けについて詳しく取り上げています。

あくまでもここで表示されているのは新品が前提です。
中古の場合は新品の耐用年数以下の年数を適用できます。建物付属設備についても同様の取り扱いです。

修繕費

修繕費とは文字通り、修繕するために支出した費用を言います。
経費処理するうえで支出した年度に必要経費にできるのか、できないのかの判断が必要になります。

簡単に解説しますが「通常の維持管理」や現状回復のための支出は、基本的に必要経費になります。
「使用可能期間が延長される場合」や「処分可能価額が増加すると認められる場合」は、資本的支出となります。
つまり、支出した年度に必要経費として計上することはできません。
例えば、それ自体で不動産の価値を増加させるほどのフルリノベーションであれば、もはや修繕とは言えず、資産計上したうえで減価償却を経て経費化しましょうということです。

結局は、事実認定の問題になります。工事の契約書や現場の写真などから個別に実態に応じて内容を検討すべきです。
もっとも支出金額が20万円未満なら必要経費にしても問題になることはありません。
修繕費が多いと所轄税務署から「簡易な接触」として問い合わせがあることがあります。

その他

それ以外の経費も考えられますが、あとは個別事情に応じてのことになります。

例えば、交際費などを計上する場合は注意しましょう。
個人の場合、交際費は原則必要経費にできないとされています。
接待する相手先、接待や支出の理由などからみて専ら業務の遂行上必要と認められるものに限り、必要経費に算入することができるとされているからです。

冷静に考えてみると、借家人を接待するでしょうか!?
一般的にはしないケースがほとんどだと思います。
もちろん個人生活を営むための支出を、不動産所得の必要経費にすることはできません(家事関連費の按分計算も行えません)。

事業的規模

個人商店などで反復継続的に小売業を営んでいる場合はれっきとした「事業」ですので事業所得となりますが、不動産の場合はその区分けが難しいです。
ワンルームマンション1部屋でも不動産所得ですし、ビル何十棟でも不動産所得になります。

副業としてワンルームマンション1部屋を所有しているサラリーマンと、多くの不動産を所有している地主とで取り扱いを同じにしてよいのかという問題があります。
これについては「本業」かどうか、すなわち「事業的規模」かどうかの区分けをしなければなりません。

そうは言っても、なかなか「事業と称するに至る程度の規模」で行っているかどうかの実質的判断が難しいため(過去何度も裁判になっています)、事業規模を決める形式的な基準があります。

それでは、詳しく紹介していきましょう。

事業的規模とは

国税庁が提示している事業的規模とは、以下の通りです。

【所得税法基本通達26-9】
建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

中には駐車場をお持ちの方もいらっしゃると思います。
駐車場の収入も所得税法上、不動産所得に該当することになります。
上記の「所得税法基本通達26-9」では建物を貸すことを前提としており、駐車場に関する記載はありませんが、駐車場については50台で事業的規模と認められることとされています。
結論的には、「5棟10室50台」という形式基準を用いて事業的規模の判定を行います。

【例】貸室8室と駐車場10台分の土地を保有する場合
   1室の貸付に相当する駐車場の土地が駐車場5台分と判定すると、
   8室+2室(10台÷5)=10室
   よって事業的規模となります。

「事業的規模」に該当するようになれば、「事業」ですから管理が難しくなるとは思いますが、税務上の取り扱いが優遇されて有利になることが多いものと思います。
国税庁タックスアンサーNO.1373 事業としての不動産貸付との区分

まとめ

一般的に不動産投資には初期費用が大きく掛かるものの、保有時については不労所得としてのイメージが付きまといます。
税務上も交際費が認められづらいなど、全般的に必要経費は限定されているため、思っているより税負担が重くなりがちです。

「ローンの返済で大変なのに、税金もかかるのか!」と憂うより、よくよく勉強をしたうえで投資判断ができるようになればいいですね。

監修:丸山卓
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税理士法人新みらい会計 税理士・FPS
相続専門の税理士としてお客様により幸せな相続をご提供したいと願っております。
現在では、様々な専門家等とネットワークを構築し、相続にまつわるサービスをワンストップでご提供。
また、資産税や税務調査に関する研究会等に所属し、常に最新情報を得ております。

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部