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2020.06.23
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遺言書とは、「自分が死んだ後に遺産をどのように分配するのか」といったことや「その遺産の分配を誰にしてもらうのか」といったことを書いた法的な書面のことです。
故人が自分の意思で、あらかじめ遺産の分配方法を決めておくことができるので、遺産の分配でもめることを回避するのに役立ちます。
ちなみに、一口に「遺言書」と言いますが、下記の3つの方式があることはご存知でしょうか?
この3つには、それぞれメリットやデメリット、手続きの違いなどがあります。
まずは、それぞれの遺言書がどのようなものか、順番に説明していきましょう。
これは、その名の通り「自分で書いた遺言書」のことです。
「自分で書いた遺言書」なので、誰かに代わりに書いてもらったりパソコンで入力して印刷したものを利用したりすることはできません。
更に、その書き方(様式といいます)は厳格なルールがあり、この条件を満たしていないものは無効となります。
ただし、平成31年1月13日にこのルールが一部緩和され財産の目録については自筆でなくてもよいとされました。
ちなみに、財産目録とは「遺言者が持っている財産の一覧表」のようなものです。
(遺産を分けるときに、どんな遺産があるか分からなければ分けようがないですよね)
自筆証書遺言の保管は自分自身で行う必要がありますが、保管場所については特に指定はありません。
これは「公証人が作成する遺言書」を指します。
公的機関である公証役場において、公証人の手で公正証書の形で遺言が作成されます。
保管場所は公証役場になります。
【用語解説】
公証人:裁判官や弁護士などの法務実務に30年以上かかわってきた人の中から選ばれ、法務大臣が任命する公務員のこと。
公証役場:法務省管轄。公正証書の作成や私文書の認定などを行う役場。
公正証書:権利や義務に関する書面を法令に定めた方式で公文書として作成した証書。 非常に証拠能力の高い書面。
これは「自分が作った遺言書に封をして、内容は誰にも秘密のまま、公証人に遺言書の存在だけを証明してもらう遺言書」です。
公証人は内容を確認しないので、遺言書自体が有効かどうかは保証されません。
あくまでも、「遺言書を本人が確認した」ということのみが保証されます。
保管については、自分自身で行う必要があります。
それぞれがどんな種類の遺言書かイメージはできたでしょうか?
次は、この3つの方式の長所と短所についてお伝えしていきます。
メリット:自分一人で作成できるので費用がかからない。遺言書の内容を秘密にしておける。
デメリット:間違えて要件(必要な条件)を満たさない遺言書を作ってしまった場合、せっかく作った遺言書が無効になってしまう恐れがある。
遺言書自体が紛失したり、書き換えられたりする可能性がある。
また、本人の死後、家庭裁判所で検認手続きをする必要があるという手間もかかります。
ちなみに「検認」とは、相続人に遺言書の存在や内容を知らせると共に、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、その偽造・変造を防止するための手続です。
メリット:検認手続きが不要。公証役場で保管されるため、偽造・紛失の恐れがない。書き方の決まりを間違えて遺言書が無効になる心配がない。
デメリット:公証人に遺言書の内容を知られる。手数料がかかる。証人を用意する必要がある。
メリット:誰にも遺言の内容を知られない。遺言書の存在が証明される。
デメリット:手数料がかかるわりに、紛失や様式不備のリスクを回避できない。
この方法が選ばれるケースは他の2つに比べて少なくなっています。
このように、それぞれの方式には長所もあれば短所もあります。
2020年7月10日からスタートする新しい制度は、このうちの自筆証書遺言における短所をフォローするような内容となっています。
2020年7月10日に新制度がスタートすることは冒頭にお伝えしました。
この新制度は「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づくものです。
先程、自筆証書遺言については「保管は自分自身で行う。保管場所は指定なし」とお伝えしたと思います。
しかし、この制度がスタートすることによって「自分で作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことが可能」となります。
では、どうやって法務局に保管してもらうのでしょうか?
大まかな流れとしては、以下のようになります。
保管先を法務省にすることによってさまざまなメリットがあります。
一つ目として、遺言者の生存中は本人以外は保管されている遺言書の内容を閲覧できないので、秘密が漏れる心配はありません。
遺言者の死亡後は、相続人や受遺者(遺贈によって相続財産を譲り受ける人)による遺言書の閲覧が可能となります。
※遺贈とは、遺言によって生前に財産を譲る相手を決めており、遺言者の死亡によってその相手(受遺者)に無償で相続財産を譲り渡すこと。
尚、一度保管しても撤回の手続きをとれば保管を取りやめることが可能です。
二つ目は、手元で遺言書を保管する必要がないので紛失・偽造の恐れがありません。
こちらも一つ目と同様に大きなメリットといえます。
三つ目は、保管の申請時に様式の確認がなされますので様式不備のリスクも避けられます。
さらに、死後の検認も不要です。
これらのメリットは前述の「自筆証書のデメリット」を補えるようになっていますね。
また、四つ目として保管手数料も遺言書の保管の申請1件につき3,900円と、公正証書遺言書を作成するよりも安く済みます。
さまざまな利点がある新制度ですが、あくまでも遺言書自体は自分で作る必要があります。
法務局で行われる審査は様式の審査にとどまるため、遺言書の内容に法的な問題があったとしても見過ごされる可能性があります。
「争続」を防ぐための遺言書が、かえって揉め事の種になるといったことを避けるためには、遺言書作成段階でその内容を十分に検討しなければならないという点に注意が必要です。
どのような内容で作れば良いのか迷われている方は、専門家に一度ご相談されることをお勧めいたします。