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2022.02.01

相続には期限がある?

相続には期限がある?

人が亡くなると、銀行口座はすぐに凍結されるの?

人が亡くなると銀行口座がすぐに凍結されると思っている人もいらっしゃいますが、そのようなことはありません。
役所に死亡届を出しても金融機関に連絡はいきません。金融機関は親族などから連絡を受けたときのみ口座を凍結します。

ただ、地方では金融機関の人も顔なじみが多く、葬式などがあると誰が亡くなったかがすぐにわかるので凍結されることもあります。しかし、病院や役所から情報が自動的に流れることはないので、その点をきちんと理解しておきましょう。

銀行口座が凍結されたら

銀行口座が凍結してしまうと、その後のお金の引き出しや引き落としなどができなくなってしまいます。
光熱費や保険料の支払いや各種クレジットカードなどの支払いも1~2カ月経ってから口座から引き落とされます。
銀行口座が凍結されると引き落としができなくなり、相続人が立て替えて支払わなければならない場合も出てきます。

亡くなった人の預金通帳をチェックすれば定期的に支払われているものがわかるので、引き落としのスケジュールをチェックしておきましょう。ただし、金融機関に引き落としの状況などを聞くと亡くなったことを告げなくてはならず、すぐに口座が凍結される恐れがあるので聞くときには気を付ける必要があります。
親族間で仲が悪い場合など、亡くなった人の財産が動かされないように親族がすぐに銀行に連絡をしてしまう場合もあります。
思いもよらないときに銀行口座が凍結されるかもしれません。親族の仲が悪い時には他の親族の動きに注意するようにしましょう。

凍結された口座から資金を移動させるには金融機関の指定した方法でそれぞれ申請しなければなりません。遺産分割協議書の提出や相続人全員の押印をした書類を提出する必要がある場合など、金融機関によって一律同じ手続きでないところが厄介です。
また。、10万円以下の少額であれば代表相続人が受け取れることが多いので、金融機関に問い合わせてみましょう。

相続放棄は3カ月目まで。放棄したつもりでも放棄しなかったことになる場合がある?

人が亡くなると、葬式・初七日・四十九日などの法要などを行っている間に時間が過ぎていきます。四十九日が過ぎると亡くなって2カ月程度が経過し、相続においては3カ月目の重要な節目が近づいています。
つまり、相続の放棄ができるかどうかの期限です。

単純承認に注意

亡くなった人(被相続人)がプラスの財産だけ持っていればよいのですが、場合によってはマイナスの財産(借金)を持っていることもあります。

相続人は単純承認・限定承認・相続放棄の3つどれかを選ぶことができますが、相続があったことを知った日から3カ月を経過すると単純承認をしたことになります。単純承認をするとプラスの財産だけでなく、マイナスの財産もすべて相続することになります。したがって、相続財産が借金だけで相続したくないというような場合には、家庭裁判所に対して相続の放棄を申請します。

限定承認とは

限定承認は相続があることを知った日から3カ月以内に行わなければなりません。
限定承認は相続財産のうち、プラスの財産の一部を同じ額のマイナスの財産を引き受けることで行います。相続放棄が単独で行えるのに対して、限定承認は相続人全員で行う必要があるので、申請のハードルが上がります。
相続財産のうち、どうしても残したいものがある場合や負債と資産のバランスがわからない場合などに使われます。

ただ、限定承認後に相続財産を使い果たしたり隠したりすると単純承認したことになります。限定承認の場合には相続人全員に影響が及ぶので十分に注意しましょう。

相続放棄の期限

相続の放棄も相続人が「被相続人が亡くなったこと」を知った日から3カ月以内に行わなければなりません。
被相続人に多額の借金があるとわかっている場合には、四十九日などを待つことなくすぐに相続放棄の手続きを取りましょう。相続の放棄をするには、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出すれば大丈夫です。
また、各々の相続人が単独で放棄することができるので、親族と仲が悪く遺産分割協議に参加したくないなどの場合にも相続の放棄をすることができます。

しかし、相続の放棄が認められない場合もあります。
一番多く考えられる例としては、葬式代などで被相続人の口座からお金を払い戻すことです。相続財産の処分にあたり、単純承認したことになります。
また、被相続人の形見分けも注意が必要です。思い出の品程度であればよいのですが、財産価値を有する衣服、宝石などを形見分けすると単純承認したことになります。

相続放棄後に上記の行動を行うと、相続の放棄が認められなくなるので、相続放棄の手続きをしたからといって気を抜かないようにしましょう。

準確定申告は4カ月目まで。何を申告したら良い?

準確定申告という名前は馴染みがない人が多いと思います。
亡くなった人は翌年に確定申告をすることができないので、1月1日から死亡した日までの所得金額及び税額を計算して、亡くなった日(相続の開始があったことを知った日)の翌日から4カ月以内に相続人がその年分の申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます。

準確定申告をする理由

亡くなる以前から収入があり確定申告をしていた人であれば、ほぼ確実に準確定申告が必要になります。
家賃や事業の収入があって納税額が生じる人が亡くなった場合、準確定申告をせずに放っておくと延滞税や加算税といった追徴税が課税されることもあります。特に亡くなった人の普段からの生活をわかっていない人が確定申告の書類を作成するとしたら4カ月は短いと思います。四十九日を過ぎてから始めると2カ月程度しかありません。複雑で難しいと感じたら税理士に依頼するのもよいでしょう。

準確定申告を行うのは、納税の心配だけでなく還付による税金の払い戻しも考えられるからです。
準確定申告においても医療費控除・社会保険料控除・配偶者控除などが適用できます。収入は1年分にはならないことが多い一方で、配偶者控除などは月割されません。

例えば年間収入が300万円であった人が6月に亡くなった場合、収入は半年分の150万円であるのに対し、配偶者控除は38万円と、年間と同じ額が差し引けるのです。また、医療費控除も医療費から10万円もしくは総所得金額が200万円未満であれば、総所得金額の5%を引いた金額を差し引くことになります。

先ほどの例で言えば、年収が300万円の時は医療費が10万円を超えないと医療費控除が使えませんでしたが、亡くなるまでの年収が150万円であれば[150万円×5%=75,000円]と75,000円以上医療費を支払っていれば医療費控除が使えることになります。
少し手間がかかりますが計算しなおして、還付できるものがあれば準確定申告を行いましょう。

相続税が非課税の人でも、申告が必要な人とは?

相続税の申告は亡くなった日(相続の開始があったことを知った日)の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。ただし、相続する財産の総額が基礎控除額を上回らなければ相続税が発生しないので申告をする必要はありません。
基礎控除額は[3,000万円+600万円×法定相続人の数]で計算されます。

例えば、父・母・長男・長女の4人家族で父親が亡くなった場合、法定相続人は母・長男・長女の3人となり基礎控除額は[3,000万円+600万円×3人=4,800万円]で4,800万円になります。

つまり、相続する財産の総額が4,800万円以下であれば相続税が発生しないことになり、申告の必要はありません。
それでも2015年の相続税の基礎控除額の引き下げ後、2019年には相続税を払う人の割合は8.3%(財団法人生命保険文化センター調べ )となっており、亡くなった方の約12人に1人は相続税の支払いが必要な財産を持っていたので、自分にも当てはまる可能性があると考えておいてください。

相続税の申告期限と遺産分割の期限

相続税の申告期限を遺産分割の期限と考えている人も多くいますが、必ずしもそうではありません。
相続税を支払う必要のある人であれば申告期限までに遺産分割を行って相続税の申告と納付をしなければなりませんが、相続税を支払う必要がなければ、原則相続税の申告期限である10カ月に関係なく遺産分割を行うことが可能です。
ただし、相続税がゼロ円の人でも相続税の申告書を提出する必要がある場合がありますので注意しましょう。

相続税の計算

相続税を計算するには、

①相続する財産を税法に従って評価して、課税価格を計算します。
②課税価格から基礎控除額を引いた金額を各相続人が法定割合で相続したと仮定して、相続税額を算出します。
③その税額を各相続人が実際に受け取った財産の金額に応じて割り振ります。
④各相続人は各人の控除を適用したのちの税額を支払います。

したがって、②のところで課税価格から基礎控除を引いた時点でゼロ円以下になれば、相続税がかからないことになります。また④の各人の控除を適用したところで税額がゼロ円になれば相続税を支払わなくて済みます。
相続税がゼロ円の人でも申告書を提出しなければならない人の例として、①の課税価格の計算においては、小規模宅地の減額特例(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)を使う人があげられます。

小規模宅地の減額特例とは、亡くなった人と同居する一定の親族が、その土地建物を相続した場合に、一定面積まで土地の評価を通常の評価よりも80%減額(2割評価)にする制度です。
例えば父親の所有する土地建物に父親と同居していた母親が、その土地建物を相続して引き続き居住する場合には、330㎡までの土地であれば土地の評価を80%軽減できるというものです。この減額特例を使うことによって課税価格が基礎控除額範囲内に収まったとしても税務署は認識できませんので申告が必要となるのです。

また④の各人の控除については配偶者の税額軽減がよく使われます。例えば子どものいない夫婦で、夫が亡くなったとします。相続人は妻のみで、妻が夫の財産1億円を相続する場合を考えます。
配偶者の場合には相続により取得した財産が法定相続分または1億6,000万円のうち、いずれか少ない金額までであれば相続税額がゼロ円となります。この例の場合、法定相続分は100%なので、1億円の財産を受け取っても相続税はゼロ円ですが、この配偶者の税額軽減を受けるためには確定申告を行わなければなりません。

終わりに

一人の人が相続に関係して手続きを行うのは、一生の間に数回しかないでしょう。
したがって手続きに関しては不明な点もたくさん出てくると思います。

相続の放棄では手続きをしても、それが認められない場合があることに注意しましょう。
また相続税の申告では税額がゼロ円でも、相続税の特例を使う場合には申告をしなければなりません。
自分一人だけで判断するのが心配なときは専門家に相談してみましょう。

青野泰弘
profile

1964年 静岡県生まれ。同志社大学法学部卒業後、国際証券に入社。
その後トヨタファイナンシャルサービス証券、コスモ証券などで債券の引き受けやデリバティブ商品の組成などに従事した。
2012年にFPおよび行政書士として独立。相続、遺言や海外投資などの分野に強みを持つ。

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部