記事

その他

2022.01.25

【連載:現預金と相続税申告】③贈与税の各種制度について

【連載:現預金と相続税申告】③贈与税の各種制度について

暦年贈与

初めに、後程説明する各種非課税制度や相続時精算課税制度は「一定の要件に当てはまった場合のみ」選択することによりできます。つまり一定の要件に当てはまらなかったり、かつ選択しなければ、原則の「暦年課税」と扱われることになります。
そこでまず、原則の暦年課税について解説したいと思います。

最初に「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に分ける必要があります。理解の仕方としては「特例贈与財産」以外が「一般贈与財産」として下さい。「特例贈与財産」は、例えば祖父から孫への贈与の際に用います(年齢などの条件あり)。

直系尊属以外からの贈与だったり、年齢の条件が満たされない場合は「一般贈与財産」となります。「特例」と「一般」の贈与で、何が違うかと言えば、税率です。直系尊属からの贈与である「特例」贈与の方が税率は低くなっています。

【例】祖父(80歳)が孫(15歳)に学費として現金を贈与する場合

例えば、祖父(80歳)が孫(15歳)に中学校を卒業したのを契機に高校3年間と大学4年間の学費として500万円の現金を贈与したとします。(※実際には、後に説明する教育資金の贈与の非課税制度を使いましょう。)

そうすると、孫は「贈与税がかからない財産」を贈与されたわけでなく、「各種非課税制度」や「相続時精算課税制度」を選択しているわけでないとすると、原則の「暦年課税」の扱いとなります。
そして「暦年課税」のうち「特例贈与財産」に当てはまるには、もらう側=受贈者の年齢が20歳以上(2022年4月以降は18歳以上)であることが要件なので、結果「一般贈与財産」の扱いになります。

贈与税額の計算は、(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円となります。

なお、孫が20歳以上だった場合、「特例贈与財産」に該当し、贈与税額は48.5万円となり、一般贈与と比べて税額が安くなります。もうすぐ成人の孫に贈与する場合は、その時期に注意するとよいかもしれません。

令和3年中に贈与があったとすると令和4年2月1日~令和4年3月15日までに所轄税務署に提出・納税することになります。納税は税務署窓口もしくは金融機関を通じて現金納付することが原則ですが、クレジットカードなどその他の方法で納付することもできます。

非課税制度

次に各種非課税制度を解説したいと思います。
具体的には、以下の3つを簡単に取り上げます。それぞれ簡単に言うと、マイホーム、教育、結婚・子育ての3つの資金贈与です。

  • 「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」
  • 「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」
  • 「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」

主に注意点を解説していきます。

「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」

概要としては住宅用不動産の需要喚起の観点から平成21年に創設されました。

~住宅取得等資金贈与のポイント~
令和3年12月31日までに住宅取得資金の贈与を受け、かつ、その資金の全額を充てて住宅の新築、取得又は増改築等に係る契約を締結していることが要件です。
ちなみに贈与の契約と住宅等の契約締結の順番はどちらが先でも後でも構いませんが、いずれも令和3年12月31日までが期限です。住宅の新築・取得等の期限及び申告期限は令和4年3月15日までです。

入居期限も令和4年3月15日までですが、遅滞なく居住することが確実な場合には居住の予定時期等を記載した書類等を申告時に添付することで適用可能となります。
しかし、この制度を利用したものの、令和4年12月31日までに居住していない場合は適用を受けられなくなるため修正申告が必要となります。
非課税限度額を超えて贈与したいという場合、超えた部分について暦年課税、相続時精算課税それぞれの仕組みで扱うことができます。
「相続開始前3年以内の贈与財産の加算」に該当するかしないかですが、加算する必要はありません。

「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」

概要としては、資金の余裕がある直系尊属から教育等に必要な資金を必要に応じてその都度贈与を受けていた場合、その直系尊属の死亡により教育資金等の贈与が途絶えることになるため、それを防止する観点から創設されました。
口座開設時や払い出し時の手続きについて紹介されているので、参考にご覧ください。(参考:領収書等に関するチェックツール

~教育資金贈与のポイント~
30歳までに全額を支出していない場合は口座残高に課税。
非課税拠出された金額を教育資金の支払いのみに使っていて、その口座残高がある場合、その口座残高は原則的に受贈者が30歳(学校に在学もしくは教育訓練を受講していない前提)に達した日に贈与があったものとして贈与税が課税されます。
受贈者が30歳に達して贈与があったとみなされたことが、相続開始前3年以内である場合は、そのみなされた贈与財産は相続財産に加算されて相続税が計算されます。
口座残高がある状態で、受贈者が亡くなった時において贈与税は課税されません。
令和3年4月以降にこの制度を利用すべく拠出され、贈与者が亡くなった際に口座残高がある場合、その時点での残高を相続財産に加算されます。
(ただし学校に在学・教育訓練を受講している場合あるいは受贈者の年齢によっては加算しません)

「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」

概要としては、少子化対策の一環として資金の余裕がある直系尊属から資産を早期に移転し、孫等の結婚・妊娠・出産・育児を支援するために創設されました。
領収書などのチェックツールが紹介されているので、参考にご覧ください。(参考:領収書などのチェックツール

~結婚・子育て資金贈与のポイント~
50歳までに全額を支出していない場合は口座残高に課税。
非課税拠出された金額を結婚・子育て資金として引き出したものの、その口座残高がある場合、受贈者の年齢が50歳に達した時に贈与があったものとして贈与税が課税されます。
口座残高がある状態で、受贈者が亡くなった際は贈与税は課税されません。
令和3年4月以降にこの制度を利用すべく拠出され、贈与者が亡くなった際に口座残高がある場合、その時点での残高を相続財産に加算されます。

相続時精算課税制度

最後に、相続時精算課税制度を解説したいと思います。

概要としては、経済的に余裕がある直系尊属から、早期(相続が開始する前の段階)に子や孫等に財産を移転すれば、その子達はその金融資産などを有効に活用することにより、幸せで豊かな暮らしが送れるのではないかという観点から創設されました。

相続時精算課税制度は、一定の要件のもとに暦年課税に代えて選択適用できる特例です。つまり「一定の要件」に当てはまらないといけませんし、納税者自らが「選択」した場合にしか適用できません。
一度選択してしまうと「暦年課税」に戻ることができないので注意してください。

令和2年分ですが、相続時精算課税を選択する場合のチェックシートを参考にご覧ください。(参考:制度選択時のチェックシート

~相続時精算課税制度のポイント~
相続時精算課税制度を選択し、贈与税の申告を行うものの、贈与税額が発生しない(簡単に言うと贈与した金額が2,500万円以内)状態で贈与者が亡くなった時おいて、贈与者の相続財産は相続時精算課税適用財産を加算して計算することになります。
その結果、相続税が非課税となる場合は、相続税の申告は不要(還付される贈与税はないため)です。
相続時に精算する場合、相続財産に加算する金額は「贈与を受けた時の価格」です。その当時より値上がりしていても値下がりしていても相続時の時価では計算しません。
株式を贈与したとして、贈与時に100万円、その後値上がりし相続時に1,000万円となっていた場合でも、贈与時の100万円で評価します。
相続時精算課税制度は受贈者(財産をもらう人)が選択するかしないかを選べる制度です。
一度選択適用するとその贈与者からの贈与は暦年課税制度に戻れず、適用後の贈与財産すべてを相続財産に加算されることになります。その事からこの制度を利用する際は十分に注意が必要です。

今後の税制改正の方向性

贈与税の非課税制度は、高齢者の金融資産を消費に繋がる若い次世代に移転することで経済を活性化しよう、そんな目的もありました。しかし、経済活性化のために本来取れる贈与税を非課税としている、という逆の表現も成り立ちます。

金融資産を移転できるのはそもそも富裕層であり、その富裕層に非課税の恩恵を与えるのは格差を固定化することではないかという議論があり、今後大きく変更される可能性があります。

2020年12月の税制改正大綱では、与党から以下の通り方針が示されました。

「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」

経済の活性化と税収の確保において、相続税・贈与税はこの二つの狭間にあり、昨今の議論では税収の確保に軸足が動いていると読むことができるでしょう。
非課税制度はもちろん、110万円の基礎控除がある暦年贈与も見直される可能性が高いと言われています。

監修:丸山卓
profile

税理士法人新みらい会計 税理士・FPS
相続専門の税理士としてお客様により幸せな相続をご提供したいと願っております。
現在では、様々な専門家等とネットワークを構築し、相続にまつわるサービスをワンストップでご提供。
また、資産税や税務調査に関する研究会等に所属し、常に最新情報を得ております。

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部