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2022.11.04
富裕層にとって、いかに節税を図るかは悩みの種です。相続税の申告に際し、相続人が相続したタワーマンションを「路線価」で財産評価し申告しました。これに対し、国税当局はその評価は実勢価格と大幅に乖離しており、著しく不適当であるとして更正処分を行いました。これを不服とした相続人が、訴訟を起こした「タワマン裁判」が2022年4月19日の最高裁判決で、国税側の勝訴が確定しました。その富裕層注目の裁判の概要をご紹介します。
「タワマン裁判」の経緯は、以下の通りでした。
➀被相続人がタワーマンション2棟の1室ずつ(合計購入価格約14億円)を購入。購入資金の一部(約10億円)は銀行から借り入れた。
<詳細は東京都杉並区のマンションを約8億3700万円(銀行借り入れ6億3000万円)、神奈川県川崎市のマンションを約5億5000万円(銀行借り入れ3億7800万円、親族から借り入れ4700万円)で購入。>
➁購入から3年後に被相続人が亡くなり、相続人等は相続財産の評価額の計算に当たり、 「財産評価基本通達」に従って、建物は「固定資産税評価額」、土地は「路線価」を用いて評価を行った。
➂相続人は評価通達の定める方法により、杉並区内マンションを約2億円、川崎市内マンションを約1億3,400万円と評価。そこから借入金を控除し、相続税を0円で申告した。
④国税サイドは、不動産鑑定による実勢価格を調査し、杉並区内マンションは約7億5400万円、川崎市内マンションは約5億1900万円と評価し、相続人に相続税の総額を2億4000万円と主張した。
以上があらましですが、国税庁は、タワーマンションの評価(土地と建物の評価)が著しく不適当であるとの指摘をしましたが、納税者サイドもルール通りに評価したのに受け入れられないと真っ向から対立し、最高裁まで争ったのです。
路線価は毎年7月1日国税庁が発表し、路線価が定められた地域にある宅地や田、畑、山林などは路線価方式で財産の価値を評価します。路線価は毎年3月に国土交通省が発表する公示地価の8割程度に設定され、公示地価の1.1~1.2倍が実勢価格の目安とされています。
マンションの場合は、敷地権(土地)の価格と区分所有する建物の価格を合計した額で評価します。「タワマン」を使った節税スキームが注目されたのは、敷地となる「宅地」の面積に対して分譲される戸数の多いタワーマンションの場合、所有権のある敷地は専有面積に応じるため、土地の評価額が抑えられるからです。
さらに、眺望がよく陽当たりもいい高層階の部屋は実勢価格が高くなり、相続税や固定資産税の財産評価額との差額が大きくなります。そして、その物件を借入によって購入している場合は、負債である借入残高は相続財産の「課税価格」を計算する際に控除項目として差し引かれるため、納税額はさらに圧縮されます。こうしたことから、「タワマン節税」が富裕層の節税対策として人気を集めたわけです。
なお、購入した部屋を賃貸で貸していたとすれば、さらに「借家割合」や「貸家建付地割合」が反映され、評価額がさらに低くなります。
相続税はプラスの財産にかかり、「お金」からものに変えることで相続税の評価が下がります。そこで、「建物」や「土地」を購入することで、相続税の評価額を下げ、相続税を節税しようという手法が使われています。
評価が著しく不適当であると最高裁が判断した理由として、次のような問題点があったと考えられています。
●タワーマンションの購入目的が「節税目的」だった。銀行の貸し出し稟議書に「相続対策のために不動産購入を計画。借入の依頼があったもの」と明記されていたことが、節税のために購入したことの証拠となったようです。
●節税効果が大きすぎた。タワーマンションを購入しなかったとすると、課税価格は6億円を超えるものでした。ところが、不動産を購入したことで、「財産評価基本通達」による相続税課税価格は2800万円程度となり、基礎控除を差し引くと相続税の総額は0円となりました。
この2点に加えて、相続人が相続したマンションのうち1室を相続税の申告直前に5億円強で売却したことも、相続税を減らすためにタワーマンションを購入したということの裏付けにされたようです。
申告書の提出を受けた札幌南税務署は、相続人たちの算出した不動産の評価額は、実際の「時価」との間に著しい乖離があるものであって、課税の公平という側面から問題であるとして、マンション「時価」の合計額を13億7300万円と評価して、増額更正処分を行いました。この不動産の評価は、課税当局から依頼を得た不動産鑑定士が、不動産鑑定評価基準によって算出した鑑定評価額に基づいたものであり、この結果、相続人が納付すべき相続税は2億4000万円強となりました。
これを不服として、相続人等は、国税不服審判所への審査請求を経て、処分取り消しを求める訴訟を起こしました。
訴訟においては、最大の争点として相続財産の「時価」をいかに計算するかが争われました。「財産評価基本通達」の総則第6項に、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という記述があります。
国税当局はこの「総則6項」に基づいて更正処分を行い、これに対して納税者は「路線価」によって行った評価は、「著しく不適当」なものではないと主張し、国税当局に更正処分の撤回を求めました。
最高裁判決では、納税者サイドに租税回避の意図があった場合は、「総則6項」の適用は適法になると結論付けられました。逆に考えると明らかに租税回避の意図がなければ従来通りの「路線価方式」でも問題なさそうですが、「タワマン裁判」の最高裁判決で「行き過ぎた節税」は許さないとの課税当局の姿勢が明らかになったことで、「タワマン節税」に逆風となり、今後急速に鎮静化するとの見方が広がっています。