資産運用
2024.06.18
独立資金のために10年で2,000万円を貯めたい…そんな一般サラリーマンの夢を叶えるためのマネープランとは? Aさんの事例をもとにFP1級の川淵ゆかり氏の提案です。
この記事の目次
飲食店に勤めている30代のAさんは、会社勤務(正社員)の奥さんと2歳の長男と郊外の賃貸マンションに住む3人家族です。現在の世帯年収は800万円ほどあり、今後しばらくは年収アップも見込めそうな状態です。
Aさんは将来自分の店を持つのが夢で、そのために子どもが小さくお金のかからないうちにできるだけまとまった資金を作りたいと考えています。すでに毎月の積み立てでの資金作りは行っているのですが、それとは別にボーナスなどを利用して、毎年150万~200万円は運用できそうだといいます。
資産運用において、投資に回す金額を考える前に、使う時期や目的によって分類する必要があります。必要な時期や目的を明確にするために、次の3つに分類することで資産運用の計画が立てやすくなります。
・生活に使うための当座の資金…流動性重視
・将来使う予定のある資金…安全性重視
・当面使う予定のない資金…収益性重視
生活に使うための当座の資金は、病気やケガなどで急に働けなくなるなど収入が途絶えてしまうことを考えて、生活費の半年分は確保しておく必要があります。流動性とは現金化のしやすさのことをいいますので、引き出しやすい普通預金などで確保しておきましょう。盗難にあうリスクを考慮して「タンス預金」はやめておきましょう。
将来必要なお子さんの進学資金やリフォーム資金などは安全性を重視する必要があります。1~2年以内に使うようなお金なら預貯金でもいいのですが、必要な時期がかなり先の場合は、ある程度は運用して増やしておかないと、現在のような超低金利の時代ではインフレに負けてしまい、資金不足になってしまう危険性があります。将来のために必要な目標金額を決めて、どのくらいで運用すればいいかを考えていきましょう。
当面使う予定のない資金は余裕資金であり自由度も高いので、投資に回すことができるお金になります。ある程度のリスクを取った積極的な運用に回すことができます。
複利効果で大きく増やす
資産運用で重要な点に利息の計算方法があります。利息の計算方法には、単利と複利の2種類があります。単利とは、元本部分に対してだけしか利息がつきませんが、複利とは、運用で得た利息を再び投資に回すことで、利息が利息を生んで大きくなる効果のことをいいます。運用期間が長ければ長いほど複利の効果を得ることができます。たとえば、100万円を年5%で運用していくとどれくらい利息がつくかを計算してみましょう(※税金は考慮していません)。
<単利の場合>
・1年後
年間利息:50,000円(元利合計:105万円)
・2年後
年間利息:50,000円(元利合計:110万円)
・5年後
年間利息:50,000円(元利合計:125万円)
・10年後
年間利息:50,000円(元利合計:150万円)
・20年後
年間利息:50,000円(元利合計:200万円)
・30年後
年間利息:50,000円(元利合計:250万円)
<複利の場合>
・1年後
年間利息:50,000円(元利合計:105万円)
・2年後
年間利息:53,000円(元利合計:110万3,000円)
・5年後
年間利息:60,000円(元利合計:127万6,000円)
・10年後
年間利息:78,000円(元利合計:162万9,000円)
・20年後
年間利息:126,000円(元利合計:265万3,000円)
・30年後
年間利息:206,000円(元利合計:432万2,000円)
なお、この複利の効果を得るためには、ある程度の金利が必要です。現在の定期預金のような超低金利での運用ではほとんど利息はつかず、いくら複利運用の商品を選んでも利息は増えず、結果として複利の効果は得られないことになります。
Aさんの場合は、すでに生活費の半年分以上を銀行に預金しているのと、お子さんの教育資金などは債券中心のバランス型投資信託でNISAによって積立投資を行っています。そこで毎年150万円を投資運用で積み立てて増やしていくことをご提案しました。
たとえば、一般的な定期預金の金利年0.002%で毎年150万円ずつ10年間貯蓄し続けた場合だと、10年後の利息分はわずか1,500円(税引き前)となり、ほとんど増えません。これではインフレに勝つことができず、せっかくの10年という期間がムダになってしまいます。
それでは、投資運用した場合、どのくらい増えるのかを計算してみましょう(※税金は考慮していません)。
元金部分 150万円×10年=1,500万円
年利率
・年2%の場合、16,425,000円
・年4%の場合、18,009,000円
・年6%の場合、19,771,500円
・年8%の場合、21,730,500円
大きな差が出てくるのがわかりますね。毎年150万円の積み立てによって10年間で2,000万円を作るために必要な運用利率は「年6.3%」となります。この金利を基準に自分に合った投資方法を探していきます。
毎年150万円の積み立てによって10年間で2,000万円を作るために必要なのは、自分に合った投資方法で複利効果を活かしながら資産を拡大させていくこと。さらに注目したいのは、海外を活用した分散投資です。
日経平均株価は1990年以来34年ぶりに3万6,000円を超え、かなり好調に思えます。しかし、相場の大幅上昇はトヨタ自動車をはじめとする一部の大型株がけん引しているのが現実であり、必ずしも好調とはいえません。現在は金融緩和によって株価が上昇しやすい傾向にありますが、今後預金金利が上昇してくると株価が下がる可能性もあります。株価は、企業の業績や国際情勢、ほかにも天候・自然災害などの要因によっても変動します。
また、日本は人口減少・高齢化が年々加速しており、長期の投資先として考えるとおススメはできません。これからも海外に目を向けた投資が重要です。そこで考えたいのが「グローバル型分散投資」です。これは複数の国や地域の様々な金融資産に分散して投資する方法で、分散投資によりリスク低減効果も期待できます。
米国は2024年11月5日に大統領選挙がありますが、過去のデータで、現職の大統領が再選を目指して立候補する年は米国株が上昇を示しています。現職⼤統領が再選のために景気刺激策を打ち出す等が株価を上げる理由の1つと考えられます。リーマンショックやITバブルが崩壊した年などの例外はありますが、年内も米国株には期待できると思います。
さらに、2024年はFRBの利下げの観測も強まっており、金利と株式は逆の動きをすることから、こちらでも米国株の株高は期待が持てるといえるでしょう。しかし株式投資だとどうしても市場の影響を受けやすいため、価格変動リスクが伴うことを考慮しなければなりません。
安定的な収入を求められるのであれば、不動産投資という方法もあります。不動産投資には「区分マンション投資」や「一棟マンション・一棟アパート投資」などがメジャーですが、「毎年150万円を積み立てて10年で2,000万円を作る」という目的のためには初期投資額が大きく、投資ハードルが高いものです。
少額から不動産に投資できる手法としては、まずは「J-REIT(日本版の不動産投資信託)」。市場に上場していることから流動性が高く、換金しやすいのがメリットですが、一方で株式と同じように価格が日々変動し、利回りも平均3%程度と高いとはいえません。海外REITなどにはリターンが高いものがありますが、海外の証券会社に口座を開設するなどの手間があります。
少額から不動産に投資できる手法としては「不動産クラウドファンディング」という手も。投資家から資金を集め、集まった資金で事業者が物件を購入し、得た利益を投資家に分配する仕組みです。少額からスタートでき、高い利回りを期待できる案件も多く、「年6.3%」という目標利回りをクリアできるかもしれません。しかし市場に上場しているJ-REITと比べて、流動性の点では劣っています。
投資である以上、どのような手法であってもメリットとリスクがあります。自身がどれほどのリスクが取れるか事前に確認しておくことが重要です。
川淵ゆかり事務所 代表
ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。
川淵ゆかり事務所ホームページ(https://yukarik-fp.jimdofree.com/)