記事

不動産投資

2023.02.08

「令和5年度税制改正大綱」で不動産投資家に影響しそうな項目は?

「令和5年度税制改正大綱」で不動産投資家に影響しそうな項目は?

2022年12月16日、令和5(2023)年度税制改正大綱が決定しました。税制改正大綱とは、毎年12月に翌年の税制に関する法律改正の方針をまとめたもので、税制改正のたたき台と言われています。今回は、令和5年度税制改正大綱の中で不動産投資家に影響しそうな項目と、不動産投資家にとって影響が大きいと思われるインボイス制度について、宮路幸人税理士が解説します。

「事業用物件」のオーナーはインボイス制度の影響大

2023年10月1日から、消費税にインボイス制度が導入されます。居住用不動産の賃貸経営において消費税は非課税であり、原則的にはインボイス制度の影響は受けることはありません。一方、事業用物件のオーナーである場合は消費税の課税対象となるため、インボイス制度の影響を大きく受けることとなります。ここからは、インボイス制度の導入によって不動産投資家はどのような影響を受けることとなるのかについて、簡単に説明しましょう。

 

①消費税の仕組み

消費税は納税者が負担しますが、納付を行うのは事業者となります。計算式は次の通りです。

 

【消費税額=課税売上にかかる消費税額-課税仕入れにかかる消費税額】

 

つまり事業者は、預かっている消費税から、支払った消費税を差し引いた額を税務署に納付することとなります。なお、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税義務が免除されます。また、住宅や土地の貸付は消費税の非課税とされています。事業用のテナントや駐車場などに消費税が課税されることとなります。

 

②インボイス制度の概要

従来、事業用不動産の借主は、支払先が課税事業者でも免税事業者でも課税仕入れとすることができました。しかし今回の改正でインボイス制度が導入されると、貸主が免税事業者である場合は、課税仕入れとすることができなくなります。

 

 

③免税事業者の対応

つまり今後、不動産投資家で事業用資産を貸し付けている人は、借主から課税事業者になるようにとの要請があることが予想されます。インボイス制度では、今まで免税事業者であった人が課税事業者となることが予想されるため、この消費税負担が増えるのをどうするのか?というのが大きな問題となっているわけです。

 

インボイス制度の緩和措置

このため、2023年10月に始まるインボイス制度について、消費税を納める必要のない「免税事業者」から消費税を納める「課税事業者」になる事業者が多くなることが予想されるので、その負担を軽減する緩和措置が取られます。

 

住宅の家賃は非課税のため、多くの不動産投資家は消費税を納める必要がない免税事業者である場合が多いです。しかし、事業用物件のオーナーはインボイス制度の導入に伴い、店舗や事務所のテナントから課税事業者となるように求められる可能性が高くなりました。

 

今回の改正では、売上高が1,000万円以下の中小企業者の場合、3年間は納税額を売上にかかる消費税額の2割とするという緩和措置を設けられます。たとえば売上が税込み1,100万円の場合、売上にかかる消費税は本来100万円ですが、緩和措置によって納める消費税はその2割、20万円とされることとなります。不動産業の場合、現行の簡易課税制度と比べても納税額は少なくなります。簡易課税制度は期限までに申請しなければなりませんが、緩和措置は事前の届出は不要です。

生前贈与のルール変更

相続や贈与に関する制度も見直されます。生きている間に子や孫に財産を移す生前贈与のうち、一般的な「暦年贈与課税」では、現行だと「相続開始3年前から」が相続税の対象となりますが、この期間を相続開始7年前までさかのぼることとなります。

 

また、生前贈与のもう一つの方式である「精算贈与課税」も見直されます。現行では2,500万円までの贈与は非課税とされ、2,500万円を超えた部分に一律で20%の贈与税を課していましたが、一度相続時選択課税を選択すると、それ以後は贈与額が少額であっても申告が必要であったため、利用者は多くありませんでした。

 

今後は、精算課税を選んだ場合でも年110万円までは非課税で、申告不要となります。従来、暦年課税と精算課税はどちらかしか選べませんでしたが、今回の改正で実質的に併用できるようになると思われます。

高経年マンションにおける固定資産税の減額

高経年マンションのうち、大規模修繕工事を実施したマンションの固定資産税を減額する特例措置が設けられます。令和4年4月、管理状態の良いマンションに対して自治体がお墨付きを与える「マンション管理計画認定制度」がスタートしましたが、この認定を受けたマンションなどが固定資産税の減額の対象となります。2023年4月から2025年3月末までの期間に外壁修理などの工事が完了すれば、建物部分における翌年度の固定資産税の3分の1が減額されることになります。

マンションの相続税評価額の見直し

タワーマンションなどの高額な不動産について、相続税評価額の基準が見直されます。マンションの時価と相続税評価額が大きく異なることを利用して、数億円規模の大幅な節税が行われた事例を受けて、評価額が適正な水準に引き上げられます。

 

通常、不動産の相続税は、建物と土地の評価額をもとに計算されます。都心部の場合、タワーマンションの評価額が実勢価額より低くなることを利用し、相続税を大幅に圧縮する事例が相次ぎました。このため今後はこうした節税をさせないように、実勢価格が評価額を大きく上回るマンションなどの物件を念頭に、相続税の新たな算定方法が検討されることとなります。

コインランドリーが特別償却の対象外に

一定の要件を満たす中小企業などが新たに設備を購入した年に、全額を減価償却または税額控除できるという制度の対象から、コインランドリー業と暗号資産マイニング業が除外されます。

 

たとえば、所得が多い年などにコインランドリーの新しい設備を取得したり、暗号資産マイニングのための設備を購入したりして大幅に所得を減らす節税方法があったのですが、その手法が横行したため、コインランドリーと暗号マイニング設備が特別償却の対象から狙い撃ちで外されました。今後そうした手法をさせないように狙った改正といえます。

まとめ

いかがだったでしょうか? 今回は、不動産投資家に影響が大きいと思われるインボイス制度などについて、改正点を踏まえて確認しました。インボイス制度が始まる令和5年10月1日から登録を受けようと考えている事業者は、原則として、令和5年3月31日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要がありますので、ご検討されてみてください。

執筆:宮路 幸人

多賀谷会計事務所 税理士、CFP
会計事務所における長い勤務経験・豊富な実務経験により、会計処理・税務処理及び経営や税務の相談など、様々な問題に対応。強みのある領域は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれるトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。常にフットワークを軽く、お客様のニーズに応えるのがモットー。離島支援活動も積極的に行っている。

この記事を書いたスタッフ

OWNERS.COM編集部